Se connecter「ああ、知っている」
電子思念体が
どこまでも白い空間だった。天井や壁はない。硬い床の感触だけがあった。後ろには白い扉がある。そして目の前には赤い球体、電子思念体が浮かんでいた。
トウマが急いた声で尋ねる。
「ウミを生き返す方法を知っているのか?」
「知りたいか?」
「教えてくれ!」
「このゲームの情報はヴァルだ。トウマよ、私にいくら払える?」
「……何?」
トウマの眉が困ったように八の字になる。
(またヴァルか!)
クソゲーである。
ベルフラウが不安そうな顔を向けた。
「ユウマ、どうするの?」
トウマは静かにあごを引く。
「1000万ヴァルだ」
「ちょっと、ユウマ! そんなにいいの?」
「かまわん。ウミを生き返す方法が分かるのなら、安いもんだ」<
「ああ、知っている」 電子思念体が抑揚のない声で告げた。無機質な電子音である。 どこまでも白い空間だった。天井や壁はない。硬い床の感触だけがあった。後ろには白い扉がある。そして目の前には赤い球体、電子思念体が浮かんでいた。 トウマが急いた声で尋ねる。「ウミを生き返す方法を知っているのか?」「知りたいか?」「教えてくれ!」「このゲームの情報はヴァルだ。トウマよ、私にいくら払える?」「……何?」 トウマの眉が困ったように八の字になる。(またヴァルか!) クソゲーである。 ベルフラウが不安そうな顔を向けた。「ユウマ、どうするの?」 トウマは静かにあごを引く。「1000万ヴァルだ」「ちょっと、ユウマ! そんなにいいの?」「かまわん。ウミを生き返す方法が分かるのなら、安いもんだ」 ベルフラウは黙り込み、渋い表情で赤い球体を睨みつけた。 赤い球体が試すように聞く。「トウマよ、1000万ヴァルを払うのだな?」「ああ」「したたかな男だな。その金は、いま私を倒して入手した金だろう」「……足りないか?」「いや、いいだろう。では1000万ヴァルをもらっておく」 瞬間、トウマのステータス画面が自動で表示された。アイテム欄から1000万ヴァルが差し引かれる。トウマは腹が痛くなり、苦渋の表情を浮かべた。下唇がひきつる。 だけど、(ウミの存在は、金には変えられん)「おい、教えてくれ」「ではこれをやろう。お前たち、ジャンクアイランドへ行け」 赤い球体の手前の床が光った。一枚の羊皮紙が生まれる。 トウマは歩み寄り、その羊皮紙を拾った。「これは?」「ジャンクアイランドへの航海マップだ」「航海マ
ひたすらに白い空間が広がっていた。 天井や壁は無い。床の感触だけはあった。白い床の先に、軽自動車ほどのサイズの赤い球体が浮かんでいる。HPMPバーがあった。名前は……電子思念体。 ステータス画面からトウマはブラウンのステッキを取り出す。 ベルフラウも腰のベルトからダガーを両手に取った。(あれがボスか?) トウマの目が鋭くなる。 ベルフラウが静かに呼んだ。「ユウマ」「ああ、行ってみよう」 赤い球体に二人は近づいて行く。 ドンと音が鳴った。【制限時間、2:00】 頭上に表示されたタイマーが動き始める。どうやらこのボスを倒すまでには制限時間があるらしい。しかもたったの二分だった。 ベルフラウが頭上を見上げて焦ったようにつぶやく。「ユウマ、このタイマーって」「おそらく、二分が経過したら、負けということだろうな」「じゃあ早く倒さないと」「ああ!」 ベルフラウが右手を掲げて唱える。「メイクアップ」 小さな可愛い手鏡が生まれる。虹色の光がベルフラウの化粧のノリを上昇させた。彼女が走り出す。「行くわ!」 ベルフラウが近づくと、赤い球体の表面には×5という文字が浮かんだ。 トウマは立ち止まって凝視する。「何だ?」 ×5、という文字は何を意味しているのだろうか? ベルフラウが赤い球体を斬りつける。「ふっ!」 身体を回転させてダガーの連続攻撃を叩き込んだ。初撃はHPが少し減った。だが、攻撃を浴びせるたびに与えるダメージが少なくなっていく。「ちょっと、硬すぎるわ!」 ベルフラウが顔をしかめている。 トウマは赤い球体の表面に表示されている文字に着目した。 ×5の文字は、いま×1に変わっていた。
とても小さな結婚式だった。 客は少なく、そのせいで賑やかではない。 だけど、これでいい。(俺たちには、お似合いだよな) なあ、ウミ。 そう思うだろ? ラグナシアの教会、その大聖堂チャペルには厳かなオルガンのメロディーが流れている。シスターの一人が演奏をしてくれていた。長机に挟まれた中央の通路には、真っ赤なヴァージンロードが敷かれている。一番前の席の右手にいるのはニキとキャルル丸、左手には晴恋とアイギスが立っていた。晴恋の一つ後ろの席にはシスターが一人。その隣には町長のティオとその使用人がいた。そして、講壇の奥には牧師のおじさんがいる。 配信ドローンは入室不可だった。 チャペルの入り口にはトウマとベルフラウが肩を並べていた。今、ゆっくりゆっくりと歩き出す。トウマはパリッとしたタキシードを着ており、ベルフラウは可憐なウェディングドレス姿だった。二人の薬指には結婚指輪がはまっている。ベルフラウは婚約指輪もつけていた。 見ると、仲間たちは誰もが笑顔を浮かべていた。 祝福してくれている。 胸に熱い気持ちが溢れた。 涙がこぼれそうになる。 ウミ、(お前も天国で笑っているか?) やがて、講壇の前にたどり着く。 オルガンの音が止まった。 ふくよかな牧師のおじさんが両手を握り合わせて、お決まりのセリフをよどみなく喋った。「……健やかなる時も、病める時も、愛を誓いますか?」 トウマとベルフラウは同時に頷く。「「誓います」」「それでは、誓いのキスを」 ベルフラウとのこれまでの思い出と旅が脳裏に浮かびあがった。 幼い頃から近所同士の付き合いである。 一緒に遊んで、勉強をして、笑ったり泣いたりを共にして育った。 トウマの姉、千景の死。 あの時から、彼女を女性として意識するようになった。 小中高共に同じ学校で。
プロポーズをしたかった。 あれから、何度かログアウトをした。 トウマはいま、ルスプルの宝石店に来ている。 朝方だった。だけど店は営業していた。このゲームの店は全て24時間営業である。外では雨が上がり、スズメがちゅんちゅんと鳴いて散歩をしていた。 直方体の店は小綺麗な室内だった。白い床に白い壁。天井には魔導具の照明が光っている。ガラスケースの中にあるのは、宝石のついた装飾品だ。指輪、ネックレス、イヤリング、様々なものがある。ダイヤモンド、ルビー、サファイア、どれも高級そうだ。 トウマはステータス画面のヴァル残高を確認しながら物色した。 婚約指輪と結婚指輪の両方を買うつもりである。 寝ているベルフラウの指をトウマはこっそりと測っていた。細長い紙と定規を使ったのである。8号だった。 お互いがつける結婚指輪は、プラチナ製の50万ヴァルのものに決めていた。二つ合わせて100万ヴァルである。 だけど、婚約指輪はどれにすれば良いだろうか? ベルフラウの好きな宝石は聞いたことがなかった。だが、ダイヤモンドをプレゼントすれば間違いはないだろう。 残された問題はカラットである。 デカければデカいほどに値段が上がる。 トウマの視線の先には、一際光り輝くダイヤモンドの指輪があった。 5カラット……500万ヴァル。(高すぎる!) 円に直せば100万円である。 致命救済の装備効果もあるらしい。 だけど、馬鹿馬鹿しいとはこのことだった。 トウマは視線を移動させて、他の指輪を確かめる。カラットが一つずつ小さくなるにつれて、100万ヴァルずつ値段が落ちるようだ。 ステータス画面と指輪の値札をちらちらと見比べる。 そして思い悩んだ。 効率から考えれば、1カラットを買うべきだろう。 だが、それでいいのか? 結婚イベントは一回きりである。 いや、現実を含めれば二回あるのではある
夜。 もう我慢できないわ。 未だにルスプルのカジノにいた。照明が室内を華やかに照らしている。スロットの賑やかな音がうるさくて耳がおかしくなりそうだった。だけどそんなことはどうでもいい。 恋人のトウマはスロットにまだのめり込んでいる。一日中プレイしていた。とても鼻息が荒く、目はうつろである。スロットのレバーを引くこととボタンを押すこと以外に興味が無いようだった。 スリーセヴンは一度も無かった。(もういい加減にして):トウマさん、まだスロットやっているし……。:配信を見ているこっちの身にもなってくれ。:違う配信行きますね。 ベルフラウは覚悟を決めた。 トウマの肩をぽんぽんと叩く。 彼が煩わしそうに振り返った。「何だ? 真帆。今、良いところなんだが」「ねえ、ダーリン。実はね、もっと効率良くヴァルを稼ぐ方法があるの」「何だと? ……嘘をつくな。カジノこそが至上だ」「違うわ。ダーリンが知らないだけなのよ。本当に、もっと簡単にお金を稼げるのよ」「……マジか? どんな方法だ? 言ってみろ」「ついてきなさい」 ベルフラウは歩き出す。 だけどトウマは立ち上がらなかった。舌なめずりをしてスロットのレバーをまた引く。 ベルフラウはまたトウマのそばに戻り、その頭をぶっ叩いた。「早くついてきなさい!」「痛っ! 何だお前。殴ることないだろ」「ほら、早くコインを換金してきなさい!」 トウマは舌打ちをした。「……良いところだったのに」 彼がコインのケースを持って交換所のカウンターへと向かう。そこでコインをヴァルに交換した。50000ヴァルほどを入手している。これなら、ラグナシアでバフ料理を売った方が断然稼げると思った。 二人でカジノを出る。
ノーファン村の山を登っていた。 登山道の両脇には木々や藪が鬱蒼と茂っている。木の葉の合間からは太陽の光がうっすらと差し込んでいた。エゾハルゼミが「ミョーキン、ミョーキン。ケケケケケ」と鳴いている。落ち葉の多い地面を踏みしめて歩き続ける。腐葉土の匂いがした。 ラグナシアではないが、気温はちょっと高かった。もうすぐ夏が始まろうとしている。 アイギスはステータス画面から製菓カードを取り出して「オープン」と唱えた。ソフトクリームを食べ始める。これで暑さが気にならなくなるはずだ。 だけど、(ニキはどこへ向かっているの?) パーティを組んでいる。 だけど三人とも、配信は切ってあった。 秘密の場所へ向かうのだろうか? ニキのまたがるキャルル丸の尻がふりふりと揺れている。途中、現われるモンスターをニキがキャノンで仕留めている。 やがて登山道をはずれて山道を進んだ。その先に洞窟が見えてくる。クジラが大口を開けているような不気味な穴だった。 ニキがこちらを振り返る。「晴恋、アイギス、今からこの洞窟に入るさ」「分かりました」「この洞窟には何があるの?」 アイギスが首をかしげつつ尋ねる。 ニキは意味ありげに口の端をつりあげた。「それは、到着してからのお楽しみさ」 彼がキャルル丸の肩を叩いた。白竜がまた歩き出す。洞窟へと進入した。(何なの?) アイギスは疑問に思いつつ、キャルル丸の揺れる尻を追いかける。 中は暗く、晴恋がランタンを取りだして点灯させた。 洞窟内に出てくるモンスターはスケルトンとオークメイジの二種類だった。現われるたびにニキとアイギスで倒した。そして十数分ほど歩き、地下一階への階段にたどり着く。ニキがキャルル丸から降りた。「みんな、食事にするさ」 ステータス画面からニキがカレーライスを取り出す。自作品のようで、Aランクの中辛だった。差し出されたのでアイギスは受け取る。
ついに邪蛇狩りが始まった。 満天の空の下。山の上の地面の土は硬く、背の低い雑草が絨毯のように生えている。トウマとウミは、大きな岩の後ろに隠れて山頂の様子を見守っていた。今までずっと登山して来たのだ。 ちなみに先ほど夕食を食べた。昼と同じカレーライスである。もう飽きた。 山頂にはキャンプファイヤーが焚かれているようで、その煙がモクモクと上がっている。炎の灯りに照らされて、人々の戦う様子がよく見えた。 邪蛇、グランツエル。そいつは紫色に輝く肌をした大蛇であり、電車一両ぶんほどのサイズがありそうだ。まるで龍のように美しい。右に左にうねって地面を這い、人々に襲いかかる。 人々の先頭にいる
森の道へと入った。 木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。 森の奥へとウミはどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。 可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて! 古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。 開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。 「グラヴィティライン」 トウマの杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。 「がうばうっ!」 走っていたテラーウルフは前のめりに
草原の中心に、黒い渦を巻いてテラーウルフが出現する。残忍な顔つき、漆黒の体毛、巨大な白い牙。その圧倒的な存在感に、トウマの背筋から冷や汗が伝った。 テラーウルフが高々と吠える。 「ガアルルルゥゥッ!」 ドンと音がして空中に文字が表示された。 ――クエスト、テラーウルフの撃破 「ボスだ、逃げろ!」「俺は死ぬ訳に行かないんだー!」「私はせっかくレベル3に上がったんだからね!」 ウミがすぐに反応した。その表情は恐怖に彩られており、モフモフとした尻尾がピンと立っている。勢いよくこちらを振り向いた。 「ご主人様、どうすれば!?」「ウミ、動くな」 トウマは状況を冷静に分析する
村の北出口から外へと出る。 草原地帯があった。ところどころには岩がある。そこにいる魔物はフェアウルフの一種類。灰色の毛並みをした狼であり鋭い牙を誇っている。大型犬ほどのサイズだ。 狩りをしているプレイヤー数は多く、必死の形相でモンスターと戦っていた。 「俺の、俺の宿代をー!」「私はまだ朝食も食べていないんだからね!」「や、やべえやべえ、こいつら強えぞ!」 トウマは顔をしかめた。このゲームのプレイヤーはみんな無職なのだろうか? 分からない。(そう言えば、俺も朝食を食っていない) ドンと音がして、頭上に文字が表示された。 ――クエスト、フェアウルフの撃破 隣にいるウミ







